─── これは、私の友人の話です。 彼女が経験したことを、できるだけそのまま、ここに記します。 読んでいて気分が悪くなったら、すぐに閉じてください。
こんにちは、空の巣ナースKAZUHAです。
今日は、いつもと違う種類の記事を書きます。
恋活のノウハウでも、NLPのテクニックでもありません。
マッチングアプリには、ごくまれに、本当にごくまれに、わたしたちの想像をはるかに超えた「何か」を抱えた人間が混ざり込んでいます。
今日話す友人のA子も、まさかそんな人間と出会うとは、思っていなかった。
出会いは、あまりにも穏やかだった
A子が彼と出会ったのは、202X年の秋のことです。
マッチングアプリのプロフィール写真に映っていたのは、白いシャツを着た、どこかの公園で撮ったらしい、穏やかな笑顔の男性でした。
名前はT。年齢は35歳。職業は地方公務員。
「堅実そうだな」というのが、A子の第一印象でした。
最初のメッセージは、たったひとこと。
「プロフィールに書いてあった、猫カフェが好きっていうの、僕も大好きなんです。どんなところに行かれましたか?」
シンプルで、押しつけがなくて、ちゃんとプロフィールを読んでいる。
A子は、すぐに返信しました。
Tとのやりとりは、毎日続きました。
だけど、毎日来るのに、しつこい感じがしなかった。
「今日、仕事どうでしたか?」 「昨日話してた映画、気になって調べてみたんですけど、ほんとに評判いいですね」 「A子さんって、雨の日は何してることが多いですか?」
Tはいつも、A子の話に興味を持って、前の会話を覚えていて、それをさりげなく拾ってくれる人でした。
「こんなに自分の話を聞いてもらったのは、初めてかもしれない」
A子はそう思い始めていました。
最初のデート
初めて会ったのは、マッチングから3週間後。
カジュアルなイタリアンレストランで、Tは時間の5分前に来て、入口の前で待っていました。
紺色のジャケット。黒い革靴。髪は清潔に整えられていて、わずかに甘い香りがした。
「お待たせしました」
「いえ、ちょうど今来たところです」
絵に描いたような、完璧な出だし。
会話の途中、A子がアレルギーの話を少しだけ触れると、Tはスマホにメモを取り始めました。
「ちゃんと覚えておきたいので」
A子は、その仕草に少し、胸が高鳴ったと言っていました。
三ヶ月後
交際が始まったのは、その後しばらくしてからです。
TはA子のためにと、好きな花を調べて毎週一輪だけ持ってきた。
「たくさん持ってくると、重たいと感じる人もいると思って」
多すぎず、少なすぎず。 いつも、絶妙な距離感を保っていました。
A子の友人たちも、TをSNSのプロフィール写真越しに見て、「いい人そう」と言っていた。
「完璧な彼氏じゃん」と、みんなが羨ましがっていた。
A子自身も、そう思っていました。
――交際3ヶ月が過ぎるまでは。
彼の部屋へ
「そろそろ、うちに来ない?」
その言葉に、A子は少しだけ迷いましたが、結局、行くことにしました。
Tのマンションは、最寄り駅から徒歩7分。
鉄筋コンクリートの、古めかしいが清潔感のある建物でした。
エレベーターに乗ると、Tは静かに押しました。
7階。
廊下の突き当たり、703号室。
Tが鍵を開けて、「どうぞ」と言いました。
部屋の中は、外観からは想像できないほど、きれいに整えられていました。
余計なものが何もない。生活感が、不思議なくらい薄い。
観葉植物がひとつ、窓の近くに置かれていて、きちんと水が与えられている様子でした。
「すごくきれいな部屋だね」
「散らかっていると、落ち着かないんです。喉、乾いてますよね。何か取ってきます」
Tはそう言って、キッチンへ消えました。
本棚の前で
A子は、ソファに座る前に、なんとなく部屋の中を見回しました。
テレビ。小さなテーブル。そして、壁際の本棚。
旅行ガイドブックが数冊、写真集が数冊、背表紙が見えないほど古びた文庫本が数冊。
本棚の端のほう、ガイドブックの間に、少しだけ厚みのある、茶色い表紙のものが挟まっているのに気がつきました。
アルバムでした。
「あ、旅の写真かな」
A子は、深く考えずに、それを引き抜きました。
ページを開いた瞬間
最初のページは、白紙でした。
次のページを開いた瞬間、A子の手が止まりました。
写真が、貼られていました。
「……え?」
それは、A子の写真でした。
でも、A子がTと撮った、ふたりの写真ではありませんでした。
A子がひとりで、駅のホームに立っている写真。
スーパーの棚の前で、商品を手に取っているA子の横顔。
近所の公園のベンチで、スマホを見ているA子の後ろ姿。
どれも、遠くから、望遠で撮られたような、粗い画像です。
日付が、写真の右下に印字されていました。
―― Tと出会う、8ヶ月前の日付。
A子の手が、小刻みに震え始めました。
「どうして」
声が、出ませんでした。
喉の奥が、ひからびたように乾いていました。
ページを、めくるたびに
震える手で、次のページをめくりました。
今度は、A子ではない女性の写真が、同じように何枚も貼られていました。
駅で、商店街で、マンションの入口で。 すべて、気づかれないように遠くから撮られた写真。
その女性の横顔の下に、Tの几帳面な字で、こう書いてありました。
【No.3:Yuri】 初接触:202X年3月(アプリ経由) 交際開始:202X年5月 備考:従順。観察価値◎ 処理完了:202X年8月
「処理」。
A子は、その二文字を、何度も何度も読み返しました。
「処理、って」
さらにページをめくると、また別の女性。
また別の、几帳面な文字のメモ。
また「処理完了」の文字。
ページが進むたびに、女性が変わる。 女性が変わるたびに、番号が変わる。
そして最後のページには、A子の写真が貼られていました。
A子の名前と、Tとのやりとりの記録。
そのページだけは、まだ「処理完了」の文字がなかった。
その時、背後から音がしました。
「あ、見ちゃったんだ」
振り返ると、Tがそこに立っていました。
いつのまにか、キッチンから戻ってきていたのです。
水の入ったグラスを、両手に一個ずつ持ったまま、静かに立っていました。
表情は、穏やかでした。
いつもの、あの優しい顔です。
でも、目が。
目だけが。
笑っていませんでした。
「A子ちゃんは、正直に言うと、歴代の中で一番『僕の好み』に育ってくれた」
Tはゆっくりと、そう言いました。
「だから、もう少し長く、一緒にいたかったんだけどな」
A子は、足が動かないのを感じました。
床に根が生えたように、立ちすくんでいました。
「Tさん、これは」
「見られちゃったんじゃ、仕方ない」
Tはグラスを、テーブルの上にそっと置きました。
そして、一歩、前に出ました。
その瞬間、A子は、アルバムをTに向かって思い切り投げつけました。
Tが、わずかに身をかがめた。
その一瞬。
A子は走りました。
靴も履かずに、ドアを開けて、廊下に飛び出しました。
エレベーターを待てませんでした。
非常階段を、7階から一気に駆け下りました。
マンションの外に出た時、初めて声が出ました。
叫んでいたのか、泣いていたのか、後から自分でもわかりませんでした。
その後のこと
A子はそのまま、近くのコンビニに駆け込みました。
店員さんに事情を話すと、すぐに警察に連絡してくれました。
警察が来るまでの間、A子はコンビニの隅で、膝を抱えて、震えていました。
足の裏が、冷たいコンクリートに触れていることに、その時初めて気がつきました。
ソックスのまま、7階から走り続けたのでした。
警察はその後、Tのマンションを訪ねましたが、Tはすでに部屋を出た後でした。
アルバムも、持ち出されていました。
Tがその後どこへ行ったのか、A子は知りません。
あのアルバムに番号が振られていた女性たちの、「処理完了」の意味が何なのか、今もA子にはわかりません。
わかりたくないと、言っていました。
KAZUHAより
この話をA子から聞いた夜、わたしはしばらく眠れませんでした。
看護師として、人の命や心に関わる仕事をしてきた。人の「異常」には、ある程度の耐性がある、つもりでした。
でも、これは違いました。
Tの「優しさ」は、すべて計算されていた。
A子の趣味を覚えていたのも、アレルギーにメモを取っていたのも、花を一輪だけ持ってきていたのも、すべて。
NLPで言えば、これは「ラポールの悪用」です。
人の信頼を得るための技術を、相手を支配するための道具として使っていた。
「完璧な人間」は存在しません。
完璧に見える人間ほど、その「完璧さ」がどこから来ているのかを、立ち止まって考えてほしい。
本当に大切なのは、スペックではなく、その人が「どんな時に本音を見せるか」です。
怒った時、疲れた時、思い通りにならない時。
そういう場面でのリアクションが、その人の本質を教えてくれます。
あなたが今、マチアプで誰かと会っているなら。
焦らなくていい。
信頼は、時間をかけてゆっくり確かめていい。
「完璧すぎる人」には、少しだけ、立ち止まってみてください。
あなたの直感は、きっと、正しいことを知っています。
空の巣ナース KAZUHA
※この記事は実話をもとに、プライバシー保護のため一部内容を変更・再構成しています。
💡マッチングアプリを使う上での教訓
相手の言動に少しでも違和感や恐怖を覚えたら、自分の直感を信じて深入りせず、個人情報を守りながら速やかに連絡を絶つ勇気を持つことが自分自身の身を守る最大の防御になります。

